総務省「ワット・ビット連携」実証が開始
この記事の結論
総務省「ワット・ビット連携関連実証」に採択された3コンソーシアムが実証開始を発表。複数DCのGPUを光回線でつなぎ電力事情に応じAI処理を移す試みです。
概要:9月18日に3陣営が実証開始を発表
2026年9月18日、NTTドコモビジネス、インターネットイニシアティブ(IIJ)、KDDIの3社がそれぞれ、総務省の令和8年度「ワット・ビット連携関連実証」に採択された実証を始めたと発表しました。開始時期はNTTドコモビジネスとIIJの陣営が2026年8月、KDDIの陣営が2026年9月です。ワット・ビット連携とは、電力(ワット)と通信・計算(ビット)を一体で最適化する考え方で、AI向けデータセンター(DC)の電力需要が急増するなか、国が進めている政策です。
総務省は2026年7月15日に選定結果を公表しており、7件の提案に対して7件すべてを採択しています。公募は「APN等を活用した分散データセンター運用のユースケース拡充に係る社会実証(実証1)」と「高度なワークロードシフトの実現に向けた社会実証(実証2)」の2区分でした。オールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network、APN)は、電気信号に変換せず光のまま伝送する通信技術です。
読者にとってのポイントは、GPUを「1か所のDCに大量に置く」だけでなく、「離れた複数のDCのGPUを1つの資源のように使う」運用が、国の実証として具体的に試され始めたことです。地方のDCや再生可能エネルギーの多い地域に置かれたGPUの使われ方が、今後変わる可能性があります。
NTTドコモビジネスと中国電力など5社:電力情報でAI処理を移す
NTTドコモビジネス、中国電力、NTTアノードエナジー、エネコム、北海道総合通信網(HOTnet)の5社は、実証1と実証2の両方に採択されています。期間は2026年8月から2027年2月までです。
1つ目の検証は、医療とスマート保安を題材にした分散AI推論・学習です。三鷹・札幌・広島のDCを10Gbpsで結ぶ広域環境と、三鷹・秋葉原・横浜のDCを100Gbpsで結ぶ東京近郊環境の2つを用意し、医療特化の大規模言語モデル(LLM)やスマート保安向けの視覚言語モデル(Vision Language Model、VLM)といった、リアルタイム性が求められる用途での使い勝手を確かめます。
2つ目は、複数DCのGPUサーバー間で、再エネの発電予測などの電力情報にもとづいてAIの推論・学習処理を移す「ワークロードシフト」です。処理を移すことで得られる経済面・環境面の価値と、AIサービスの品質とのトレードオフを評価します。5社は、令和10年度頃までに電力・通信・計算資源を統合制御する「ワット・ビット制御システム」の実現を目指すとしています。
九州電力・IIJなど7社:九州の3拠点を1つのDCとして運用
九州電力を代表とし、IIJ、ハイレゾ、Qsol、ビーブリッド、ギリア、ビットメディアが参加するコンソーシアムは、実証1に採択されました。IIJの発表によると採択は2026年7月15日、実証は8月に始まり、2027年2月まで行います。
佐賀県玄海町の「ハイレゾ玄海DC」、福岡県糸島市の「糸島サイエンスヴィレッジ(SVI)」、福岡県糟屋郡の「IIJ福岡空港DC」の3拠点をAPNなどの低遅延ネットワークで結び、仮想的に1つの大規模DCとして統合運用する仕組みを確かめます。ハイレゾは玄海町の拠点とGPU資源を提供し、分散処理を検証します。IIJは糸島SVIに自社開発のマイクロDC「DX edge」を提供します。
その上で、医療・介護、製造業、自治体、まちづくりの4分野のユースケースを動かします。IIJによると、2025年10月から2026年3月に実施したプロジェクト(九州電力、IIJ、QTnetなど5社)では九州の2拠点にDC機能を分散配置して検証しており、今回はその取り組みを発展させて拠点を3つに増やした形です。将来は再エネ、蓄電池、DCを一体で整備・運用する「オフグリッド型分散DC」も見据えるとしています。
KDDIなど3社:500km離れたGPUでロボットを動かせるか
KDDI、モルゲンロット、トークネットの3社は、小売店向けロボット(リテールロボット)を使った分散型DCの実証を2026年9月に始めたと発表しました。KDDIの大阪堺データセンターと多摩ネットワークセンターの間をAPNで接続し、両拠点のGPUとモルゲンロットのGPU仮想化基盤を組み合わせます。
遠隔推論の検証では、GPUをロボットの端末内(0km)、県内近傍(20km〜)、県内遠隔(50km〜)、県外(500km〜)に置く4パターンで処理を比べます。分散学習の検証では、近くのDCだけ、遠くの大阪堺DCだけ、両方を使う分散学習の3通りで学習時間の短縮効果を調べます。1拠点から複数拠点へAPNでつなぐPoint-to-Multipoint型APN(P2MP型APN)の光学特性や消費電力も検証対象です。
トークネットは、2027年度に予定するAPN事業者間接続に向けたエリア間接続を検討します。3社は今後、APNの接続区間を東北エリアまで広げるとしています。
GPU投資・DC投資を考える読者にとっての意味
3つの実証に共通するのは、GPUの置き場所を「電力に余裕がある場所」「再エネが多い場所」へ広げ、通信で結んで一体として使うという発想です。IIJはDCが東京・大阪を中心とする大都市圏に集中していることを、KDDIは利用者に近いDCや通信局舎の計算資源と電力の不足を課題に挙げています。地方DCのGPUが実際にどの程度の距離・遅延まで実用になるのかを、各陣営の実証で確かめることになります。
ここから先は本サイトの見方です。GPUサーバーを購入してDCに預ける投資では、稼働率と利用単価が収益を左右します。分散運用やワークロードシフトが実用化すれば、地方拠点のGPUにも処理が回りやすくなる一方、電力の状況に応じて処理が移される前提では、拠点ごとの稼働率が一定にならない可能性もあります。いずれも実証段階であり、結果が公表されるまでは収益見通しの根拠にしないことをおすすめします。
なお総務省の選定結果には、ほかにグラビス・アーキテクツ(さくらインターネットなどが参加)、日本電気(NEC)、電源開発、MESH-X(KDDI、ソフトバンク、東京電力パワーグリッドなどが参加)をそれぞれ代表とする4件も含まれています。
よくある質問
ワット・ビット連携とは何ですか?
電力(ワット)と通信・計算(ビット)を一体で最適化する考え方です。AI向けデータセンターの電力需要が急増するなか、電力に余裕のある地域のデータセンターを通信でつなぎ、効率よく使うことを目指しています。
総務省のワット・ビット連携関連実証は何件採択されましたか?
総務省は2026年7月15日、7件の提案に対して7件を採択したと公表しました。9月18日にはそのうちNTTドコモビジネス、IIJ(九州電力代表)、KDDIの各陣営が実証開始を発表しています。
実証はいつまで行われますか?
NTTドコモビジネスの陣営とIIJ・九州電力の陣営はいずれも2026年8月から2027年2月までの実施と発表しています。KDDIの陣営は2026年9月に開始し、2027年度にAPN事業者間接続の実証を予定しています。
この実証はGPUサーバー投資の収益に影響しますか?
現時点では実証段階で、収益への影響は分かりません。分散運用が実用化すれば地方拠点のGPUも使われやすくなる可能性がある一方、処理が電力状況で移される前提では稼働率が変動する可能性もあり、結果の公表を待つのが安全です。
出典
- 総務省 令和8年度「ワット・ビット連携関連実証」に関する実証事業の選定結果(2026年7月15日)
- NTTドコモビジネス 分散DCにおけるAIの分散処理やワークロードシフトによりAI処理と電力の最適化の社会実装をめざす「ワット・ビット連携」の実証を開始(2026年9月18日)
- IIJ 総務省の「令和8年度 ワット・ビット連携関連実証」に採択(2026年9月18日)
- KDDI リテールロボットを活用した分散型データセンター実証を開始(2026年9月18日)
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